東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)99号 判決
原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。
(一) 成立に争いのない甲第四、第五号証の各一ないし五、第六号証の一ないし三、第七、第八号証の各一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証ないし第一六号証の各一、二、第一七号証の一ないし五、第一八号証及び第一九、第二〇号証の各一、二並びに弁論の全趣旨によれば、本願商標の「J・C・SNEAD」の部分は、ゴルフ・プレーヤーの氏名から成るものであること、ゴルフ・プレーヤーJ・C・SNEADは、原告主張のような輝かしいゴルフアー歴を有する者であること、彼が各種ゴルフ大会において輝かしい記録を収めた模様は、日本のゴルフ週刊誌、テレビ等に大きく報道され、特に一九七八年(昭和五三年)六月の全米オープンゴルフの模様は、有名日刊新聞紙にも連日掲載されていること、彼のスウイングやシヨツトを題材としたゴルフ上達法等の紹介記事が日本のゴルフ週刊誌に掲載されるに至つたこと、米国PGAに所属しているプロ・ゴルフアーの中に、原告主張のようなゴルフアー歴を有する有名なゴルフアーとしてSAM SNEAD、ED SNEEDがおり、この両名と区別する必要上、ゴルフ週刊誌、テレビ放映、日刊新聞紙等においてJ・C・SNEADについて述べる際には必ずフアーストネーム及びミドルネームを共に用いて「J・C・SNEAD」と称していることが認められる。右認定事実によれば、J・C・SNEADの名は、日本のゴルフ愛好家の間においては、優れたプロ・ゴルフアーの名として周知となつていることを推認することができる。
(二) 原告は、ゴルフコース、ゴルフ練習場の総数、その年間利用延人員、ゴルフ関連産業におけるゴルフ用具の年間製造、販売総数等やゴルフトーナメントのテレビ放映における視聴率等を根拠に、ゴルフを愛好する人口、ゴルフ関連産業に携わる人口は、その家族をも含めると日本の人口の過半数に達しているから、J・C・SNEADの名は、必ず一連に「ジエーシースニード」と称呼するものとして日本国内において周知となつている旨主張する。
しかしながら、原告が主張するゴルフコース、ゴルフ練習場の総数、その年間利用延人員(これらは、成立に争いのない甲第二一号証によつて認められる。)だけからは、ゴルフ・プレーヤーの人口を明らかにすることもできない。また、ゴルフ関連産業に携わる人口についても、右ゴルフ場、ゴルフ練習場の総数、その年間利用延人員だけからは、様々な規模のゴルフ場、ゴルフ練習場の事務担当職員、ゴルフコースの保全要員、キヤデイーの人口を到底把握することはできないし、ゴルフ用具の製造、販売に従事する人口についても、ゴルフ用具の年間製造、販売総数、総金額が原告主張のとおりであるとしても、それだけからは、右人口を明らかにすることはできない。さらに、ゴルフを見て楽しむ人口については、テレビによつて楽しんだ延人員が原告主張のとおりであるとしても、これからは右人口を明らかにすることはできないし、原告主張の五パーセント前後の視聴率(原告主張のプロゴルフ・トーナメントのテレビ放映の視聴率は、成立に争いのない甲第二二号証の一、二によつて認められる。)からは、右人口として、全国で何百万のオーダーで推認しうるに過ぎない。
(三) いずれにしても、原告の根拠とするところないし本件に顕われた証拠からは、ゴルフを愛好する人口、ゴルフ関連産業に携わる人口がその家族をも含めると、日本の人口の過半数に達するとの事実は、到底これを認めることができない。むしろ、本願商標の指定商品が広く被服、布製身回品、寝具類(ただし、一の項から明らかなとおり、除外の商品がある。)であることからみると、ゴルフには無縁の取引者、需要者が大多数であると認められる。のみならず、ゴルフ愛好者の家族や、ゴルフ用具の製造、販売に従事する者及びその家族のうち、どれ程が「J・C・SNEAD」の名を知つているかも、容易に推知することができない。そうすると、J・C・SNEADの名が必ず一連に「ジエーシースニード」と称呼するものとして日本国内において知られているとは認めることができない。
原告は、商標の称呼は諸般の事情よりして定まるものであるとして、商標の事例に徴し、かつ、現在取引の場において本願商標が「ジエーシースニード」と一連に称呼されているから、本願商標の称呼は「ジエーシースニード」であると主張するが、本願商標が現在わが国における取引の場において「ジエーシースニード」と一連に称呼されていることを認めるに足りる証拠はなく、また、右事例も本件事案に適切なものとはいえないから、原告の右主張は理由がない。
(四) そこで、ゴルフ・プレーヤーのJ・C・SNEADを知らない一般大多数の取引者、需要者間において、本願商標のうちの「J・C・SNEAD」がどのように称呼されるかについて検討するに、そのうち「J・C・」の部分を氏名一部の略称、イニシアルとして理解し、認識する場合も考えられるが、経験則によれば、「J」「C」のようなローマ字は一字又は二字で商品の品番、型式、規格や出所に関連する事項などを表示するための符号又は記号として取引上随時採択使用されていることが認められるから、本願商標においても、「J・C」をそのような記号又は符号として認識し、理解することも少なくないものといわなければならない。このような場合には、同部分にはさして関心、注意を用いず、あるいは、簡易迅速を旨とする取引の実情のもとにおいては、これを省き、商品の出所を識別するのに最も顕者な部分である「SNEAD」の部分をとらえて、単に「スニード」と称呼して取引に当る場合が多いということができる。
(五) 一方、別紙(二)の引用商標は、その構成から「スニード」の称呼を生ずることが明らかである。
したがつて、本願商標と引用商標とは「スニード」の称呼を同じくする場合のある類似の商標であるというべきであり、審決について原告主張の取消事由を肯認することはできない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>